高次脳機能障害とは

高次脳機能障害とは、交通事故などで頭部に外傷を受け、意識が回復した後に現れる脳の障害です。記憶力・集中力・判断力の低下といった認知障害と、怒りっぽくなる、感情が変わりやすくなる、自分から行動を起こせなくなるといった性格変化が主な症状で、事故前のようには仕事や学業に戻れなくなるなど、社会復帰に大きな影響が出ることがあります。

骨折のように目に見える障害ではないため、ご本人に自覚がないことも多く、日常生活を共にするご家族の観察が症状の把握に欠かせません。

等級の枠組みと「4能力」

自賠責保険の基準では、高次脳機能障害は「神経系統の機能又は精神の障害」として、その程度に応じて第1級・2級・3級・5級・7級・9級のいずれかに認定されます。程度の判断では、次の「4能力」がどれだけ失われたかに着目されます。

能力内容
① 意思疎通能力語彙力・理解力など、他人とやり取りする力
② 問題解決能力判断力・計画性など、課題に対処する力
③ 持続力・持久力作業の負荷に耐えて仕事を続ける力
④ 社会行動能力協調性や感情のコントロールなど、集団の中で行動する力

等級ごとの状態のイメージは、おおむね次のとおりです。

等級帯状態のイメージ
1級・2級
(要介護)
日常生活に常時または随時の介護が必要な場合
3級・5級事故後長期間の意識障害があり、画像上も脳挫傷痕や脳室拡大が明らかな場合など。生涯にわたり働くことができない状態では3級、ごく軽易な仕事にしか就けない状態では5級が目安
7級・9級日常生活は自立しているものの、複数の作業を同時にこなすことが難しい、感情のコントロールに問題があるなど、就労が相当程度制限される場合

なお、脳の器質的な損傷までは立証できない場合、高次脳機能障害としては認められず、頭痛などの神経症状として12級13号や14級9号にとどまる判断がされる傾向にあります。

認定審査で重視される3つの要素

高次脳機能障害の等級認定は判断が難しいため、自賠責では専門部会(高次脳機能障害審査会)で審査される体制がとられています。審査で重視される主な要素は次の3つです。

要素内容
① 画像所見CT・MRIにより、急性期の脳内出血・脳挫傷痕や、慢性期の脳室拡大・脳萎縮といった器質的な病変が確認できること。認定の原則的な要件とされる最も重要な要素
② 意識障害受傷直後の意識障害の程度と持続時間。特に意識障害が6時間以上続いた場合には、高次脳機能障害が生じる可能性が高いとされる。画像所見がはっきりしない場合、判断の鍵になる要素
③ 臨床症状と経過事故直後から認知障害や社会的行動障害が現れ、症状が続いているか。ご家族による「日常生活状況報告」や、神経心理学的検査(MMSEなど)の結果が、能力低下を具体的に裏付ける資料になる

頭部外傷の中には「びまん性軸索損傷」のように、損傷が画像で確認しにくい病態もあります。その場合でも、時間の経過とともに脳萎縮が進行していることを画像の比較で示せれば、有力な根拠になり得ます。受傷後の適切な時期にCT・MRIが撮影されているか、経過を追った画像が残っているかが、後の認定を左右します。

画像所見が乏しい場合の考え方

画像上に明らかな器質的損傷が確認できない場合、高次脳機能障害の等級認定は一般に極めて難しくなります。もっとも、実務では次のような判断がされた例もあり、直ちに諦める必要はありません。

認定の余地がある場合

CT・MRIで異常が確認できなくても、SPECT検査(脳血流検査)で血流の低下が示されている、長期のリハビリテーションを担当した医師の診断がある、事故後に見当識障害が確認されているといった事情を総合して、9級相当の認定を認めた裁判例があります。また、画像による他覚的な証明まではできなくても、脳損傷の存在が医学的に合理的に推測でき、わずかな能力低下が認められる場合には、14級9号(相当)として認定される余地があります。

認定が難しい場合

画像所見がなく、受傷時に意識障害も認められない場合には、神経心理学的検査に異常があっても「脳外傷による症状」とは評価されず、非該当とされる可能性が高くなります。

自賠責の認定結果と裁判所の判断

裁判所は自賠責の等級認定に拘束されるわけではありませんが、専門部会による総合的な審査の結果は裁判でも尊重される傾向が強く、多くの裁判例で自賠責の等級どおりの判断がされています。自賠責で非該当とされた事案を裁判で覆すことには、一般に困難が伴います。

もっとも、個別の事案により判断が分かれることもあります。自賠責で非該当や低い等級とされた場合でも、裁判所が事故後の具体的な生活状況や医師の意見書などを詳細に検討し、より上位の等級を前提とした賠償を認めた例があります。自賠責で9級とされた事案について、4能力の喪失の程度を踏まえて5級相当と判断された例も報告されています。

他方で、画像所見や意識障害がなく、症状が事故から数か月以上たってから現れたような場合には、加齢や他の疾患によるものとの区別が難しいとして、事故との因果関係自体が否定される例も少なくありません。だからこそ、事故直後からの検査と記録の積み重ねが重要になります。

鍵になる2つの書類 — 家族の報告と医師の意見

高次脳機能障害の申請では、通常の後遺障害診断書に加えて、次の2つの書類が求められることが多くなっています。

① 日常生活状況報告(ご家族が作成)

長い時間を共に過ごすご家族だからこそ書ける、事故前後の変化の詳細な記録です。具体的なエピソードに基づく鮮明な記載が力を持ちます。ただし、誇張は禁物です。治療記録と食い違う記載は、かえって全体の信用性を損ないます。

② 神経系統の障害に関する医学的意見(主治医が作成)

専門家である医師が作成するため信用性の高い書類です。医師に症状を正確に把握してもらうためにも、日頃の診察でご家族から症状を具体的に伝えておくことが大切です。

ポイント

審査で最も重要なのは、ご家族の「日常生活状況報告」と医師の「医学的意見」の内容が整合していることです。2つの書類がバラバラに作られると食い違いが生じやすいため、作成前に弁護士を交えて内容を整理することを強くおすすめします。

認定後の賠償 — 将来の介護費用まで見据えて

高次脳機能障害は、認定されて終わりではありません。症状によっては長期間の介護・見守りが必要になるため、賠償交渉では次のような将来の費用まで漏れなく請求することが重要です。

将来介護費(近親者介護・職業介護)、介護用品の費用、自宅の改造費用、後遺障害慰謝料、逸失利益 — いずれも金額が大きく、保険会社と争いになりやすい項目です。等級別の慰謝料の目安は後遺障害慰謝料と逸失利益の相場をご覧ください。

ご注意: この記事は一般的な解説です。認定の見通しや請求できる費目は、症状・画像所見・介護の必要性など個別の事情によって異なります。具体的なご事情については、弁護士にご相談ください。

高次脳機能障害についてよくある質問

Q. 本人に自覚がなく、相談に行きたがりません

高次脳機能障害では珍しくない状況です。ご家族のみでのご相談も承っていますので、まずは事故後の変化をメモにまとめてお越しください。

Q. 事故直後のMRIを撮っていません。もう認定されませんか

画像所見がない場合の認定が難しいのは事実ですが、意識障害の記録や症状経過、SPECT検査(脳血流検査)の結果など、他の資料で立証できる余地もあります。治療記録を確認して見通しをご説明しますので、諦める前にご相談ください。

Q. 症状は軽い方だと思いますが、それでも申請すべきですか

高次脳機能障害の等級は、介護を要する重い等級(別表第1の1級・2級)から、就労への影響を評価する等級まで幅があります。軽いと思われる症状でも、仕事や生活への影響が続くのであれば、申請を検討する価値があります。

まとめ — 書類の作成前にご相談ください

高次脳機能障害の等級認定は、画像所見・意識障害の記録・症状経過という3つの要素と、ご家族の報告・医師の意見という2つの書類の整合性で決まります。びまん性軸索損傷のように画像に現れにくい病態であっても、早い段階から専門医による神経心理学的検査を受け、ご家族が事故前後の変化を具体的なエピソードとして記録し、客観的な資料を積み上げることが、適切な等級認定への道筋になります。そして、これらは提出前の準備段階でこそ手を打てるものです。将来の介護まで見据えた適正な賠償のためにも、後遺障害診断書や日常生活状況報告を作成する前に、一度ご相談ください。