関節可動域制限とは — 等級の数値基準

関節可動域(ROM)とは、関節が動く範囲のことです。交通事故のケガ(骨折・脱臼・靱帯損傷など)の後遺症として関節の動きが制限された場合、その制限の程度に応じて、関節の機能障害として後遺障害等級が認定される可能性があります。

上肢・下肢のいわゆる3大関節(上肢=肩・ひじ・手関節、下肢=股・ひざ・足関節)については、自賠責保険・労災保険の基準で、健側と比較した可動域の割合に応じて次のように等級が定められています。

制限の程度評価等級の目安
可動域が健側の2分の1以下に制限関節の機能に著しい障害を残すもの10級
可動域が健側の4分の3以下に制限関節の機能に障害を残すもの12級

さらに、関節が強直するなど「関節の用を廃した」と評価される場合には、より上位の等級が検討されます。数値の割合で等級が画されるため、測定された角度がそのまま等級と賠償額を左右します。

測定のルール — 「他動」が原則です

可動域の測定は、日本整形外科学会等が定める「関節可動域表示ならびに測定法」に基づき、角度計を用いて行われます。測定には2つの方法があります。

測定方法内容認定での扱い
他動医師が患者の関節を動かして測る原則としてこちらが採用される(恣意性が入りにくいため)
自動患者自身が動かして測る参考値。ただし末梢神経の麻痺や激痛により自動運動が困難な場合には、例外的に自動値が採用されることも

ただし、他動測定でも医師が加える力の程度には幅があり、測定値だけでなく、可動域制限を裏付ける器質的な所見(骨折部の状態・関節の変形など)があるかが併せて重視されます(詳しくは後述)。

健側との比較と「主要運動・参考運動」

健側との比較が原則

可動域制限の程度は、健側(ケガをしていない側)の関節と比較して評価するのが原則です。左右両方に障害がある場合には、標準的な参考可動域角度と比較します。

主要運動と参考運動

関節の動きには「主要運動」(その関節の日常動作で最も重要な運動)と「参考運動」があり、評価の中心は主要運動です。たとえば首(頸部)では、屈曲(前に倒す)・伸展(後ろに倒す)・回旋(回す)が主要運動、側屈(横に傾ける)は参考運動とされています。どの運動が主要運動かは部位によって異なります。

ポイント

後遺障害診断書の可動域欄に、主要運動の測定値が漏れていたり、自動値しか書かれていなかったりすると、適正な評価を受けられないおそれがあります。診断書の作成前に、測定してもらうべき部位・運動を整理しておくことが重要です。

数値だけでは足りません — 器質的損傷の裏付けが不可欠

可動域の測定値が基準を満たしていても、それだけで機能障害が認定されるわけではありません。大多数の裁判例や認定実務は、将来にわたって障害が残存することの証明として、器質的損傷(骨折や脱臼後の癒合不良、靱帯・腱の損傷、神経損傷など)の裏付けを必要としています。

レントゲンやMRI等の画像検査で異常所見が認められない場合、「可動域制限の原因となる客観的所見に乏しい」と判断され、12級以上の機能障害が否定されることが多いのが実情です。裁判例でも、足関節に骨折がなく靱帯損傷の他覚的所見も乏しい事案(東京地判平成30年3月23日)や、上肢の関節機能障害について客観的所見が不足しているとされた事案(名古屋地判平成26年3月27日)では、14級を超える等級は認められていません。

もっとも、骨折などの外形的な器質的損傷がない場合でも、受傷後の治療経過が関節拘縮の発生と整合するときには、機能障害が認められることもあります。「画像に写らないから終わり」ではなく、診療録に残された治療経過を丁寧に拾い上げることが重要です。

測定値の信用性が争われるケース

後遺障害診断書に記載された可動域の数値が基準を満たしていても、その信用性自体が否定されることがあります。可動域の測定は被験者の協力度など主観に依存する側面があるため、次のような場合には測定結果は無条件には信用されません。

  • 痛みを理由に意図的に動きを抑えるなど、恣意的な操作が疑われる場合
  • 数値が大幅に変動して安定しない、不自然な経過がある場合

裁判例でも、後遺障害診断時の数値がそれまでの治療経過に比べて極端に悪化していた事案(大阪地判平成28年2月26日)や、自動値と他動値が大きく乖離していた事案(大阪地判平成26年10月31日など)で、測定値の信用性が否定されています。

ポイント

認定の場でも裁判でも、数値そのものより「数値の推移が治療経過・画像所見と整合しているか」が問われます。通院のたびの測定記録が一貫していることが、症状固定時の測定値の信用性を支えます。症状を重く見せようとする不自然な訴えは、かえって全体の信用を失わせるため禁物です。

機能障害か、神経症状か — 認定の2つのルート

「関節が動かしにくい」という同じ症状でも、原因によって認定のルートが分かれます。

原因認定のルート
骨折後の変形など器質的な損傷が原因で、動かそうとしても動かない関節の機能障害として認定(可動域の制限の程度で等級が決まる)
痛みが原因で、動かせるが動かせない局部の神経症状(14級9号・12級13号)として認定

神経症状のルートでは、他覚的所見により医学的に証明できる場合は12級13号、他覚的所見はないが医学的に説明可能な場合は14級9号とされる傾向にあります。

このルートは「受け皿」としても重要です。可動域の制限が数値基準に達せず機能障害として認定されない場合でも、関節付近に疼痛が残存していれば、神経症状として12級13号・14級9号が認定される余地があります。また、RSD(CRPS)と診断されるに至らない場合であっても、疼痛による可動域制限が残っていれば神経症状として評価され、損害算定の対象となります。

どちらのルートに乗るかで等級・賠償額が変わり得るため、ご自身の症状の原因がどちらにあたるのか、画像所見と照らした検討が必要です。等級の仕組みは後遺障害の等級についての基礎知識をご覧ください。

ご注意: この記事は一般的な解説です。人体には多数の関節があり、部位ごとに参考可動域角度・評価方法が異なります。認定の見通しは個別の検討が必要ですので、弁護士にご相談ください。

裁判所の柔軟な認定と労働能力喪失率

裁判所は自賠責の認定に拘束されません

裁判所は、自賠責保険の等級認定基準に拘束されず、被害者の具体的な障害の態様や治療経過を参酌して、独自に障害等級を認定することができます。裁判例には、自賠責で非該当とされた下肢関節の後遺障害について12級7号を認めた事例(奈良地判平成4年12月21日)や、手指(拇指)の可動域制限を実際の測定結果に基づき併合9級と認めた事例(横浜地判平成25年9月30日)があります。等級認定の基準値にわずかに達しない可動域制限についても、自賠責では非該当となる一方、裁判所が日常生活の困難さを踏まえて機能障害を認めることがあります。

労働能力喪失率も職業に応じて柔軟に判断されます

労働能力喪失率の認定でも、職業の特性(体を使う技能職 — たとえば移動式クレーンの運転士など)に応じて、自賠責の等級ごとの基準より高い喪失率が認められることがあります。一方で、若年の方や症状の内容によっては、喪失期間を5年〜10年程度に制限する判断も散見され、ここも個別事情による攻防のポイントです。

関節可動域制限についてよくある質問

Q. リハビリを続ければもっと動くようになると言われています。いつ測定すべきですか

後遺障害は症状固定時の状態で評価されます。改善の見込みがあるうちは治療・リハビリを続け、症状固定のタイミングは主治医と相談しながら慎重に判断してください。打ち切りを迫られている場合は治療費打ち切り・症状固定と言われたらもご覧ください。

Q. 後遺障害診断書をすでに書いてもらいましたが、可動域の記載が簡単すぎる気がします

測定値の記載が不足している場合、追記や再測定を医師に依頼できることがあります。提出前であれば手を打ちやすいので、診断書をお持ちのうえ早めにご相談ください。

Q. 認定された等級で賠償額はどのくらい変わりますか

たとえば関節の機能障害で多い12級と10級では、弁護士基準の慰謝料目安だけでも290万円と550万円と大きな差があります(等級別の目安参照)。逸失利益も等級で変わるため、適正な測定・認定が重要です。

Q. 自賠責の認定結果に納得できません。どんな理由で判断されたのか確認できますか

保険会社は、後遺障害等級を判断した際、その理由を記載した書面を被害者に交付する義務があります。まずその理由を確認し、「客観的所見の不足」なのか「測定値の信用性」なのか、どこが弱点とされたのかを分析することが、異議申立てや訴訟での立て直しの出発点になります。認定理由の分析はぜひ弁護士にご相談ください。

まとめ — 数値と裏付けの両輪で決まります

関節可動域制限の後遺障害認定は、可動域の数値基準を満たすことに加えて、それを合理的に説明できる器質的損傷の裏付けがあるかが決定的な要素になります。実務では後遺障害診断書の数値だけでなく、受傷から症状固定に至るまでの画像所見・診療録の治療経過との整合性が厳しく問われ、一貫した訴えと客観的な裏付けがなければ上位等級の獲得は困難です。

他方で、裁判所には自賠責の基準に拘束されない柔軟な認定の余地もあります。「他動での正確な測定」「健側との比較」「主要運動の網羅」「器質的所見との整合」— これらは後遺障害診断書が完成してからでは修正しにくいものばかりです。診断書の作成を医師に依頼する前に、測定のポイントを整理するためにも、一度ご相談ください。