会社員の休業損害 — 有給休暇を使った場合も対象です
会社員(給与所得者)の休業損害は、交通事故の治療などのために稼働できず、収入が減少した場合の減収分です。重要なのは、有給休暇を使って治療したため減収がなかった場合でも、休業損害は認められるということです。本来自由に使えたはずの有給休暇を事故のために消費させられたこと自体が損害と考えられるためです。
休業の事実と金額は、勤務先に「休業損害証明書」を作成してもらって証明します。総務・人事などの担当部署に作成を依頼するのが通常です。治療のために早退した場合も、早退した時間分の休業損害が認められますので、タイムカード等で勤怠が正確に記録されていることが大切です。
争いになりやすい「日額」の計算方法
会社員の場合、1日あたりの賃金単価をどう計算するかで、保険会社と争いになることがあります。一般に、事故前3か月の給与合計を「何日」で割るかによって、次のように差が出ます。
| 計算方法 | 計算式 (給与合計120万円・ 休業20日の例) | 休業損害 |
|---|---|---|
| 実労働日数で割る (例: 60日) | 120万円 ÷ 60日 = 日額2万円 2万円 × 20日 | 40万円 |
| 暦日数で割る (例: 90日) | 120万円 ÷ 90日 = 日額約1万3,333円 約1万3,333円 × 20日 | 約26万円 |
同じ休業日数でも、計算方法だけで10万円以上の差が生じ得ます。保険会社が暦日数ベースの低い日額で計算してくることもあるため、提示内容の確認が重要です。
ポイント
賞与(ボーナス)が治療・休業のために減額された場合、その減額分も立証できれば請求の対象になり得ます。会社に証明書の発行を依頼する方法があります(後記の事例参照)。
自営業の休業損害 — 確定申告書がベースになります
自営業(事業所得者)の休業損害は、会社員よりも複雑です。基本の流れは次のとおりです。
① 基礎収入の算定
事故前年の確定申告書をもとに、売上金額から原価と変動経費を控除して基礎収入を算定します。ここでポイントになるのが、固定費(家賃・保険料など、休業中も支出を余儀なくされる経費)は損害として請求できる余地がある一方、どの支出が変動経費にあたるかは一義的に決まっておらず、事業の特性に応じた個別の検討が必要という点です。
② 休業日数の算定 — 認定方法はひとつではありません
自営業の方は「この日だけ完全に休業した」という形になりにくいため、休業日数の認定方法は一律ではありません。裁判例では、職業や就労実態、ケガの経過に応じて、主に次のような手法で休業日数が認定されています。
(1) 完全休業と一部休業を段階的に認定する方法
入院期間や事故直後の一定期間は100%の休業を認め、その後、症状の回復や営業再開に合わせて割合を段階的に引き下げる手法です。営業再開までは100%、再開後から症状固定までは歩行支障等を考慮して50%とした事例(横浜地判平成24年12月14日)、安静通院加療の2週間は100%、その後の通院日119日は50%とした事例(横浜地判令和元年6月27日)、事故から313日間は100%、その後症状固定までの183日間は50%とした事例(大阪地判平成25年1月29日)などがあります。
(2) 実通院日数を基準とする方法
実際に病院へ通院した日数を休業日数とみなす方法です。自営業者の場合、通院のために仕事を休まざるを得ない実情が考慮されます。症状固定までの実通院日数72日を休業日数とした事例(東京地判平成30年6月13日)のほか、通院日でも丸一日の休業までは要しないとして、通院実日数の4割を休業日数として算定した事例(徳島地判平成24年2月1日)もあります。
(3) 全期間を休業期間とする方法
重傷の場合や事業への影響が甚大な場合には、事故日から症状固定日までの全期間を休業期間として認めた事例(東京地判平成25年3月27日)もあります。
特殊な就労形態・代替労働力がある場合
休日が決まっていないなど就労が不定期な場合、「本人が通院による休業と主張する日数」と「事故前の平均的な休業日数を超える欠勤日数」のいずれか少ない方を採用した事例があります(大阪地判平成24年9月25日)。また、ご家族の協力や代替人員の雇用によって現実の減収が生じなかった場合でも、本来不要だった人件費やご家族の貢献、減収回避のための本人の努力を考慮して、一定の範囲で休業損害が認められることがあります。
このように、どの手法で主張するかによって休業損害の金額は大きく変わり得ます。就労実態と治療経過に照らして最も適切な構成を選択することが重要です。
ご注意: 確定申告をしていない場合や、申告額が実際の収入より低い場合、休業損害の立証は難しくなりますが、実収入を裏付ける資料によって認められる余地もあります。諦める前に弁護士にご相談ください。
解決事例 — 賞与減額分・固定費を認めさせたケース
当事務所の解決事例①(会社員・賞与減額分)
治療のための休業により賞与が減額された会社員の方の事案で、当事務所の弁護士が作成した書式をもとに会社が証明書を発行してくれた結果、賞与減額分についても相手方保険会社に請求し、認められました。
当事務所の解決事例②(自営業・接待交際費の精査)
接待交際費の多い自営業の方の事案で、レシートを1枚1枚精査し、中元・歳暮のような固定費的性格を持つ支出を抜き出して、休業中も支出として相当であったことを丁寧に説明した結果、保険会社が当方の主張を受け入れ、十分な休業損害が認められました。
※いずれも事案の内容によって結果は異なります。同様の結果を保証するものではありません。
休業損害についてよくある質問
Q. 会社が休業損害証明書の書き方が分からないと言っています
休業損害証明書は日常的な書類ではないため、勤務先が記載に迷うことはよくあります。当事務所では記載方法のご案内や書式の提供など、勤務先とのやり取りもサポートします。
Q. 事故後に転職・退職しました。休業損害はどうなりますか
事故と退職の関係や、退職後の治療状況によって扱いが変わる難しい論点です。個別の事情を伺ったうえで見通しをご説明しますので、ご相談ください。
Q. 役員報酬をもらっている会社役員でも請求できますか
役員報酬のうち「労務の対価」にあたる部分は休業損害の対象になり得ますが、利益配当的な部分は対象外とされるのが一般的です。報酬の実態に応じた検討が必要ですので、弁護士にご相談ください。
まとめ — 計算方法しだいで金額は変わります
休業損害は、会社員なら日額の計算方法や賞与減額分の扱い、自営業なら変動経費・固定費の切り分けによって、金額が大きく変わり得る項目です。保険会社の提示が唯一の計算方法とは限りません。証拠の内容を踏まえて最も適切な主張を選択するために、示談の前に一度ご相談ください。



