カウザルギー・RSD・CRPSとは — 定義と分類
CRPS(複合性局所疼痛症候群)は、カウザルギーとRSDを包括する総称です。強い疼痛に伴って交感神経の反射が過剰に継続し、手足の末端部の血流障害や組織の変化が生じて、灼熱痛(焼けつくような痛み)などの異常な疼痛を引き起こす疾患とされています。国際的な分類では、末梢神経の損傷の有無によって次の2つのタイプに分けられます。
| 名称 | 内容 |
|---|---|
| CRPSタイプⅠ (RSD=反射性交感神経性ジストロフィー) | 明らかな末梢神経の損傷を伴わないもの。強い痛みのほか、しびれ・関節可動域制限・発汗異常などを伴うことも |
| CRPSタイプⅡ (カウザルギー) | 明確な末梢神経の損傷を伴うもの。損傷した神経の支配領域を超えて広がる強い疼痛が特徴 |
医学的には、①きっかけとなった外傷の程度と不釣り合いなほど強い症状を示すこと、②痛みの範囲が単一の末梢神経の支配領域に限局しないことが特徴とされる、難治性の疼痛疾患です。「ケガは軽いはずなのに痛みが異常に強い」こと自体がこの傷病の性質であり、大げさに訴えているわけではありません。
なお、自賠責の後遺障害認定手続では「CRPS」という区分はまだ採用されておらず、カウザルギーまたはRSDとして認定の当否が判断されます。
認定され得る等級 — 7級・9級・12級・14級
自賠責保険の後遺障害等級認定は、原則として労災保険の障害等級認定基準に準じて行われます。疼痛による後遺障害は、痛みの強度と労働能力への影響の程度に応じて、次の4つの等級が検討されます。
| 等級 | 状態 |
|---|---|
| 7級4号 | 軽易な労務以外の労働に常に差し支える程度の疼痛があるもの |
| 9級10号 | 通常の労務に服することはできるが、疼痛により時には労働に従事できなくなるため、就労可能な職種の範囲が相当程度に制限されるもの |
| 12級13号 | 「局部に頑固な神経症状を残すもの」。通常の労務に服することはできるが、時には労働に差し支える程度の疼痛が起こるもの。他覚的検査所見により神経系統の障害が医学的に証明されることが要件 |
| 14級9号 | 「局部に神経症状を残すもの」。受傷部位にほとんど常時疼痛を残すが、他覚的に証明されるには至らず、医学的に説明可能な程度のもの |
カウザルギーの等級判断では、疼痛の部位・性状・頻度・強度・持続時間と、疼痛の原因となる他覚的所見に基づいて、労働能力に及ぼす影響が評価されます。等級ごとの慰謝料・逸失利益の目安は後遺障害慰謝料と逸失利益の相場をご覧ください。
自賠責・労災でRSDの認定に必要な3つの症状
自賠責・労災の実務では、RSDとして上記の基準で認定されるためには、健側(症状のない側)と比較して、次の3つの症状がいずれも明らかに認められることが必要とされています。
① 関節拘縮 ② 骨の萎縮 ③ 皮膚の変化(皮膚温の変化・皮膚の萎縮など)
3つすべてが求められるため、自賠責におけるRSDの認定は極めて厳格です。だからこそ、レントゲンによる骨萎縮の確認(健側との比較撮影)、皮膚温の測定など、基準に対応した検査を実施し、後遺障害診断書に記載してもらうことが重要です。主治医に診断書を依頼する際には、必要な検査項目を整理して臨む必要があります。
12級と14級を分けるもの — 他覚的所見による証明
疼痛の後遺障害で実務上大きな分かれ目になるのが、他覚的所見(画像検査・神経学的検査など、本人の訴えによらない客観的な所見)による裏付けの有無です。
| 立証の程度 | 帰結 |
|---|---|
| 他覚的所見により医学的に「証明」できる | 12級13号(またはそれ以上の等級)が視野に入る |
| 他覚的所見はないが医学的に「説明」できる | 14級9号にとどまる可能性 |
| 自覚症状のみで説明も難しい | 後遺障害そのものが否定される可能性 |
12級以上の認定には、MRI等の画像検査や神経学的検査による裏付けが重視されます。自覚症状のみで他覚的所見がない場合には14級にとどまるか、後遺障害自体が認められない傾向にあります。CRPSの症状を客観的な検査結果として残せるかどうかが、等級と賠償額を大きく左右します。
裁判所の判断傾向 — 4つの立場に分かれています
自賠責の認定に納得できない場合、訴訟でCRPSの発症と後遺障害を争うことになりますが、裁判所の判断手法は一様ではなく、裁判例は主に次の4つの立場に分かれると分析されています。
| 立場 | 内容 |
|---|---|
| ① 労災基準 (3要件)で 判断する立場 | 関節拘縮・骨萎縮・皮膚の変化の3要件を厳格に適用し、満たさない場合はCRPSの発症を否定する |
| ② 医学的な 診断基準で 判断する立場 | 労災基準にない「日本版CRPS判定指標」や国際疼痛学会の「IASP基準」等の医学的知見に基づいて判断し、骨萎縮等がなくても発症を肯定する。3要件をすべては満たさないものの、日本版CRPS判定指標を満たすこと等から12級13号を認めた裁判例があります(京都地判平成26年5月20日) |
| ③ 各基準を 総合的に 検討する立場 | 骨萎縮の有無だけでなく、画像所見・電気生理学的検査・皮膚の色調変化・浮腫等を総合して判断する。骨萎縮がなくてもCRPSを肯定し、7級を認めた裁判例があります(横浜地判平成26年4月22日) |
| ④ 病名の特定に 拘泥しない立場 | CRPSという傷病名を確定させること自体に実益はないとして、痛みの部位・程度・治療経過・予後等を総合検討して労働能力喪失率を定める(大阪高判平成13年10月5日など) |
ポイント
自賠責でRSDの3要件を満たせず認定が得られなかった場合でも、裁判所は医学的な診断基準や症状の総合評価によってCRPSの発症・後遺障害を認めることがあります。自賠責の結果だけであきらめる必要はありません。一方で、いずれの立場でも他覚的な医学的所見の積み重ねが決定的に重要である点は共通しています。
因果関係・症状の信用性が争われやすいポイント
CRPSの事案では、症状そのものの存在に加えて、事故との因果関係が争われることが少なくありません。裁判例上、次のような事情がある場合には、事故との相当因果関係が否定されることがあります。
- 症状固定後に症状が悪化している場合
- 事故態様の程度と不釣り合いに強すぎる症状の訴え方がされている場合(※医学的特徴としての「不釣り合いな痛み」とは別に、訴えの一貫性・合理性が問われます)
- 画像所見と症状が整合しない場合
- 整形外科など本来の診療科での診断を経ていない場合
これらは裏を返せば、事故直後から整形外科・ペインクリニック等で一貫した診断・治療を受け、症状の推移を診療記録に残し続けることが、因果関係の立証を支えるということです。通院の中断や診療科の偏りは、後から取り返すことができません。
損害評価 — 労働能力喪失率と併合の考え方
発症が認められても、損害評価は別途争われます
CRPSの発症が認定されても、それだけで賠償額が決まるわけではありません。症状が生活や就労に与える影響(重症度)が個別に検討されます。診断基準を満たした項目の数と労働能力への影響は必ずしも一致しないと指摘されており、実際の就労状況・生活状況の立証が重要です。
裁判例では、12級13号で労働能力喪失率20%(喪失期間28年間)、9級で35%(21年間)といった認定のほか、主婦の方の事案で10級程度として27%(38年間)を認めた例(神戸地判平成22年12月7日)など、事案に応じた幅のある判断がされています。
関節の機能障害との「併合」は原則されません
CRPSに伴う疼痛と関節可動域制限は、同じ原因から派生した関係にあるため、原則として両者を併合する取扱いはされず、疼痛としての等級で一本化して評価されます。もっとも、異なる部位の外傷からタイプⅠとタイプⅡが別個に発症した場合などに、併合評価を認めた裁判例(大阪地判平成27年4月22日)も存在します。複数部位に症状がある方は、評価の組み立て方について弁護士にご相談ください。
認定されなかった場合の受け皿と素因減額
CRPSとして認定されなくても、あきらめる必要はありません
仮にカウザルギー・RSDとしての認定が得られなかった場合でも、①痛み・しびれについて神経症状として14級9号や12級13号、②関節が動かしにくい症状について関節可動域制限としての後遺障害(関節可動域制限の後遺障害参照)が認定される可能性が残ります。
素因減額の主張には反論の余地があります
保険会社から「患者本人の性格が痛みに影響している」として賠償額の減額(素因減額)を主張されることがあります。しかし、CRPSの発症メカニズム自体が現在の医学でも解明されていないため、裁判所は素因減額の主張を認めない傾向にあります。減額主張を安易に受け入れる必要はありません。
ご注意: この記事は一般的な解説です。認定の見通しは症状・検査所見・治療経過など個別の事情によって異なり、特定の等級の認定を保証するものではありません。具体的なご事情については、弁護士にご相談ください。
CRPSについてよくある質問
Q. 「痛みが強すぎる。大げさでは」と保険会社に言われました
外傷と釣り合わない強い痛みこそがCRPSの特徴であり、症状を疑われること自体がこの傷病の宿命ともいえます。だからこそ、検査所見と一貫した治療記録による客観的な立証が重要です。おつらい状況ですが、記録を武器に反論できます。
Q. 「骨萎縮がないのでRSDとは認められない」と言われました
自賠責の実務では骨萎縮を含む3要件が必要とされるため、自賠責の手続では認定が難しい場合があります。しかし裁判所には、日本版CRPS判定指標やIASP基準などの医学的知見に基づいて、骨萎縮がなくてもCRPSの発症や後遺障害を認めた例があります(本文の裁判例参照)。自賠責の結果だけで判断せず、訴訟で争う余地がないか弁護士にご相談ください。
Q. どの診療科にかかればよいですか
整形外科に加えて、ペインクリニック(麻酔科)で疼痛の専門的な治療・評価を受けている方も多くいらっしゃいます。通院先の選択も治療記録の充実に関わりますので、主治医とご相談のうえ、賠償の観点からの整理は弁護士にご相談ください。
Q. 治療が長引いていますが、いつ後遺障害を申請すべきですか
症状固定の時期は、治療効果と賠償の両面から慎重に判断する必要があります。CRPSは治療が長期化しやすいため、保険会社から早期の打ち切りを迫られがちですが、応じる前にご相談ください。
まとめ — 治療当初からの記録が鍵です
カウザルギー・RSD・CRPSの後遺障害認定は、自賠責では3要件(関節拘縮・骨萎縮・皮膚の変化)を軸とした極めて厳格な判断がされる一方、裁判所では医学的な診断基準や症状の総合評価によってより柔軟に認められる余地があります。ただし、いずれの場でも他覚的な医学的所見による証明が、高い等級認定と賠償の成否を分ける決定的な要素であることに変わりはありません。
そのために必要なのは、①自賠責の基準・医学的診断基準に対応した検査の実施、②事故直後からの一貫した診断・治療の記録、③基準と裁判例を踏まえた書面の整理です。これらは症状固定の間際になってからでは間に合わないことが多く、事故当初からの準備が結果を左右します。この症状に理解のある弁護士に、できるだけ早い段階でご相談ください。



