死亡事故の逸失利益とは — 計算式の全体像
逸失利益とは、亡くなられた方が生きていれば将来得られたはずの収入(利益)を、損害として賠償請求するものです。死亡慰謝料とは別の損害項目であり、働き盛りの方が亡くなられた事案では、賠償総額のなかで最も大きな金額になることが少なくありません。
実務では、次の計算式で算定するのが一般的です。
死亡逸失利益の計算式
基礎収入 ×(1 − 生活費控除率)× 就労可能期間に対応するライプニッツ係数
将来の収入をそのまま合計するのではなく、①亡くなられたことで支出しなくなったご本人の生活費を差し引き(生活費控除)、②将来受け取るはずのお金を一括で受け取ることによる利息分を差し引いて(中間利息控除)、現在の価値に引き直します。この3つの要素 — 基礎収入・生活費控除率・中間利息控除 — のそれぞれが、保険会社との交渉で争点になり得ます。
基礎収入はどう認定されるか — 立場別の考え方
基礎収入は、原則として事故前の実収入を基準としますが、亡くなられた方の立場によって考え方が整理されています。
| 亡くなられた方の立場 | 基礎収入の考え方 |
|---|---|
| お勤めの方・ 自営業の方 | 原則として事故前1年間の実収入 |
| 若い働き手の方 | 今後の昇給の可能性や、企業規模・職種に応じた平均賃金が採用される傾向 |
| 幼児・児童・学生 | 原則として賃金センサス(賃金構造基本統計調査)の全年齢平均賃金 |
| 主婦・主夫 (家事従事者) | 原則として賃金センサスの女性全年齢平均賃金 |
| 失業中の方 | 働く意思と能力があれば、年齢別平均賃金などを参照 |
ここで重要なのは、事故前の実収入が平均賃金を下回っていた場合でも、将来的に平均賃金程度の収入を得られる蓋然性(確からしさ)が認められれば、平均賃金を基礎とできる場合があることです。保険会社の提示が直近の収入だけを基準にしているときは、将来の稼働可能性が適切に評価されているかを確認する余地があります。
ポイント
収入のない幼児やお子さん、家事従事者の方でも、逸失利益は請求できます。「収入がなかったから逸失利益はない」という説明を受けた場合は、そのまま受け入れる前にご相談ください。
生活費控除率 — 立場別の目安と調整
亡くなられた方が生きていれば支出したはずのご本人の生活費は、収入から差し引かれます。もっとも、実際の生活費を個別に認定することは難しいため、実務では、ご家庭内での役割や立場に応じて次のように定型化されています。
| 亡くなられた方の立場 | 生活費控除率の目安 |
|---|---|
| 一家の支柱(被扶養者1人) | 40% |
| 一家の支柱(被扶養者2人以上) | 30% |
| 女性(主婦・独身・幼児等) | 30% |
| 男性(独身・幼児等) | 50% |
ただし、この目安がそのまま適用されない場合もあります。たとえば、年少の女の子について男女計の全労働者平均賃金を基礎収入とする場合には、男性との均衡を考慮して45%程度とされることがあります。また、年金で生活されていた方は、収入に占める生活費の割合が高いと考えられることから、50〜60%と高めに設定される傾向があります。独身女性の方でも、定年まで男性と同等の給与を得ていた場合に、その期間の控除率を50%とした判断もあります。
ポイント
生活費控除率が10%違うだけで、基礎収入500万円・就労可能期間27年の例では900万円以上の差になります。どの区分が適用されているか、提示書面で必ず確認しましょう。
就労可能期間と中間利息控除(ライプニッツ係数)
就労可能期間 — 原則18歳から67歳まで
働いて収入を得られたはずの期間(就労可能期間)は、原則として18歳(大学卒業を前提とする場合は卒業予定時)から67歳までとされます。ご高齢の方の場合は、平均余命の2分の1の期間を就労可能期間とするのが一般的です。
中間利息控除 — 事故時の法定利率で計算します
将来の何十年分もの収入を一括で受け取ると、その間の運用益(利息)の分だけ受け取りすぎになるという考え方から、中間利息が差し引かれます。実務では複利計算による「ライプニッツ方式」に統一されており、2020年4月施行の改正民法により、控除に用いる利率は損害賠償請求権が生じた時点(事故時)の法定利率によることが明文化されました。改正後の法定利率は年3%から始まる変動制です。
まだ働いていないお子さんの場合は、就労を始める18歳までの期間に対応する係数を差し引いて計算します。
計算例(単純化したモデルケース)
40歳・年収500万円・一家の支柱(被扶養者2人以上)の方の場合:
500万円 ×(1 − 0.3)× 18.327(67歳までの27年間に対応するライプニッツ係数・年3%)≒ 約6,414万円
※あくまで計算の仕組みをご理解いただくための単純化した例です。実際の金額は、基礎収入の認定や個別の事情によって変わります。
年金・退職金は逸失利益になるか
年金を受給されていた方が亡くなられた場合、その年金が逸失利益になるかどうかは、年金の種類によって扱いが分かれます。
| 種類 | 逸失利益としての扱い |
|---|---|
| 老齢年金・障害年金 (加給分を除く) | 保険料を納めてきた対価としての性格(拠出性)があるため、認められるのが判例の立場 |
| 遺族年金・ 無拠出制の福祉年金 | 受給者ご本人の生計維持が目的であることなどから、否定される傾向 |
また、退職金についても、給与の後払いとしての性格が認められる場合には、生活費控除を行ったうえで逸失利益として算定されることがあります。年金や退職金が関係する事案は法的な整理が複雑になりやすいため、弁護士にご相談ください。
ご注意: この記事の金額・割合は公刊物等で一般に紹介されている目安であり、逸失利益の認定は個別の事情によって異なります。個別の事案の結論を保証するものではありません。具体的なご事情については、弁護士にご相談ください。
逸失利益についてよくある質問
Q. 専業主婦(主夫)でも逸失利益を請求できますか
請求できます。家事労働には経済的価値が認められており、賃金センサスの女性全年齢平均賃金を基礎収入とするのが原則です。パートなどの収入があった方は、実収入と平均賃金の高い方を基礎とする扱いが一般的です。
Q. 子どもや学生が亡くなった場合の逸失利益はどうなりますか
まだ収入がなくても、賃金センサスの全年齢平均賃金を基礎に、18歳(大学進学を前提とできる場合は卒業予定時)から67歳までの期間で算定するのが原則です。就労開始までの期間分の中間利息も控除されます。
Q. 保険会社の提示額が低い気がします
基礎収入の認定(直近の収入だけを基準にしていないか)、生活費控除率の区分、係数の計算のいずれかで、弁護士基準との間に差があることが少なくありません。提示書面の内訳を確認し、示談の前に一度ご相談ください。
まとめ — 提示額の内訳を確認するために
死亡事故の逸失利益は、基礎収入・生活費控除率・中間利息控除という3つの要素の掛け算で決まり、そのそれぞれに「定型的な基準をどう当てはめるか、どこを修正できるか」という争点があります。特に、若い方の将来の期待収入や、家事従事者・年金受給者の扱いは、主張・立証のしかたで結論が変わり得る部分です。賠償総額のなかで最も大きな項目になることが多いからこそ、示談書にサインする前に、内訳の確認と弁護士基準に照らした検討をおすすめします。



