死亡慰謝料には3つの算定基準がある
交通事故の慰謝料には、「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準(裁判基準)」という3つの算定基準があります。自賠責基準は法律に基づき定額的に定められた最低限の補償水準、任意保険基準は各保険会社が社内で定めた水準、弁護士基準は過去の裁判例を集積した公刊の算定基準(いわゆる「赤い本」「青本」など)に基づく水準です。
保険会社からの提示は、多くの場合、弁護士基準よりも低い水準で計算されています。提示を受けた段階で、どの基準に基づく金額なのかを確認することが重要です。
弁護士基準(裁判基準)の目安 — 立場別の金額
弁護士基準の死亡慰謝料は、亡くなられた方の家庭内での立場(属性)に応じて目安が整理されています。実務で最も広く参照される「赤い本」の基準は次のとおりです(※個別の事情により増減があります)。
| 亡くなられた方の立場 | 慰謝料の目安 (赤い本) |
|---|---|
| 一家の支柱 | 2,800万円 |
| 母親・配偶者 | 2,500万円 |
| その他(独身の男女・子ども・幼児等) | 2,000万〜2,500万円 |
同じく公刊の基準である「青本」では、一家の支柱2,800万〜3,100万円、一家の支柱に準ずる場合2,500万〜2,800万円、その他2,000万〜2,500万円と幅をもたせた整理がされており、大阪地裁の算定基準では一家の支柱2,800万円・その他2,000万〜2,500万円の2区分とされています。いずれの基準でも、おおむね2,000万〜3,000万円程度の範囲に収まります。
ポイント
上記の金額は、亡くなられたご本人の慰謝料と、ご遺族固有の慰謝料(後述)を合算した総額の目安として扱われるのが一般的です。提示書面の金額がご本人分だけなのか、ご遺族分を含んだ総額なのかも、確認しておきたいポイントです。
自賠責基準の死亡慰謝料 — 定額で決まっています
これに対して自賠責基準の死亡慰謝料は、次のとおり定額的に定められています。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 亡くなられたご本人分 | 400万円 |
| ご遺族分(請求権者1人) | 550万円 |
| ご遺族分(請求権者2人) | 650万円 |
| ご遺族分(請求権者3人以上) | 750万円 |
| 被扶養者がいる場合の加算 | 上記遺族分に+200万円 |
被扶養者とは、亡くなられた方に扶養されていた配偶者や未成年のお子さん、65歳以上のご両親などをいいます。
たとえば請求権者が3人で被扶養者がいる場合でも、本人分400万円+遺族分750万円+加算200万円=1,350万円にとどまり、弁護士基準の目安(2,000万〜3,000万円程度)とは大きな開きがあります。基準の違いを知らないまま示談に応じてしまう前に、一度確認することをおすすめします。
慰謝料が増額される場合・減額される場合
立場別の基準額は出発点であり、個別の事情によって増減されます。
増額が認められやすい事情
次のような事情がある場合、基準額を上回る慰謝料が認められることがあります(京都地判平成28年11月29日など、増額を認めた裁判例があります)。
① 加害行為の悪質性・重過失 — 飲酒運転、無免許運転、危険運転、著しい速度違反、信号無視、薬物使用、居眠り・脇見運転など
② 事故後の不誠実な態度 — ひき逃げ(救護義務違反)、証拠隠滅、虚偽の供述、謝罪の欠如、過度な責任否定など
③ ご遺族側の特殊な事情 — ご遺体の損傷が激しくご遺族が対面できなかった場合、被扶養者が多数いる場合、ご遺族が事故を原因として精神疾患(抑うつ状態等)を発症した場合など
減額が問題になり得る事情
他方、相続人が被害者と疎遠であった場合、被害者がご病気などで余命がわずかであることが確実視されていた場合、加害車両への同乗の経緯などが、減額方向の事情として検討されることがあります。
ポイント
飲酒運転やひき逃げなどの悪質な事情がある事案では、増額事由を具体的に主張・立証できるかどうかで最終的な金額が変わり得ます。刑事記録の取り付けなど、立証には専門的な対応が必要ですので、弁護士にご相談ください。
ご遺族「固有」の慰謝料 — 誰に認められるか
民法711条は、被害者の父母・配偶者・子に対して、ご遺族自身の精神的苦痛に対する固有の慰謝料を認めています。実務上の死亡慰謝料額はこの固有分を含む総額として示されることが多く、ご遺族間の配分はご家族の内部の事情を踏まえて決められます。
また、711条に挙げられていない兄弟姉妹や祖父母であっても、亡くなられた方と実質的に同視できる身分関係や密接な交流が認められる場合には、固有の慰謝料を認めた裁判例があります(名古屋地判令和元年9月25日など)。「自分は請求できないのでは」と思われる関係の方も、諦める前にご相談ください。
死亡慰謝料以外に請求できる損害項目
死亡事故では、慰謝料のほかにも、逸失利益(お元気であれば将来得られたはずの収入等)、葬儀関係費用、事故から亡くなられるまでの治療費などを請求できます。特に逸失利益は賠償額の大きな部分を占めることが多く、算定方法によって金額が大きく変わります。詳しくは死亡事故の逸失利益とは — 計算方法と争点をわかりやすく解説をご覧ください。
なお、事故後すぐには亡くならず、一定期間の治療を経て亡くなられた場合には、死亡慰謝料とは別に、亡くなられるまでの入通院慰謝料(傷害慰謝料)が認められるのが一般的です(さいたま地判平成24年10月22日、大阪地判平成27年1月21日など)。事故当日や翌日に亡くなられたような短期間の場合には、傷害慰謝料を別途計上せず、死亡慰謝料の算定の中で考慮される扱いもあります。
ご注意: この記事の金額は公刊物等で一般に紹介されている目安であり、請求できる項目・金額は個別の事情によって異なります。個別の事案の結論を保証するものではありません。具体的なご事情については、弁護士にご相談ください。
ご遺族が確認しておきたい3つのポイント
1. 示談を急ぐ必要はありません
保険会社から早い段階で示談の提示があっても、その場で応じる必要はありません。法要が明けてから検討を始めるご遺族も多くいらっしゃいます。
2. 提示額の算定基準と内訳を確認する
提示書面に「自賠責基準」「当社基準」などの記載があるか、金額がご本人分・ご遺族分を含む総額かを確認しましょう。弁護士基準との差が大きい場合があります。
3. 弁護士費用特約の有無を確認する
ご自身やご家族の自動車保険に弁護士費用特約が付いていれば、多くの場合、自己負担なく弁護士に依頼できます。
まとめ — 示談書にサインする前に
死亡慰謝料は、弁護士基準ではおおむね2,000万〜2,800万円程度が基本の目安とされ、飲酒運転やひき逃げなどの悪質な事情が重なる場合には、ご本人・ご遺族合計で3,000万円を超える認定がなされることもあります。一方、自賠責基準では総額1,000万円前後にとどまることも珍しくありません。一度示談が成立すると原則としてやり直すことはできませんので、サインする前に一度、弁護士基準に照らした確認と、増額事由の有無の検討をおすすめします。



